2026年10月5日
タングステン精鉱の価格決定:MTU、WO₃品位、APT基準価格
タングステン精鉱価格の仕組みを解説。メトリックトンユニット(MTU)、WO₃品位、APT基準価格、不純物、契約条件。
タングステンを初めて扱うバイヤーから、精鉱のオファーにはなぜ単純なトン当たり価格が示されないのか、という質問をよく受けます。その理由は、タングステン精鉱の価格が三つの要素で構成されているためです。第一に、WO₃のメトリックトンユニットで測る精鉱中のタングステン含有量。第二に、通常はパラタングステン酸アンモニウム(APT)に連動する基準価格。第三に、品位、不純物、受渡条件に応じて価格を調整する契約条件です。本稿では、これらの要素がどのように組み合わされるかを説明します。
メトリックトンユニット(MTU)
タングステンは総重量ではなく、含有量に基づいて取引されます。取引単位はメトリックトンユニット(MTU)です。1 MTUは1メトリックトンの1%、つまり三酸化タングステン(WO₃)10 kgに相当します。WO₃に占めるタングステンの重量比は約79.3%であるため、1 MTUには約7.93 kgのタングステン金属が含まれます。これはMinor Metals Trade AssociationのAPT規格にも示されています。
計算は単純です。
- WO₃品位65%の精鉱1ドライメトリックトンには65 MTUが含まれます。
- したがって、WO₃品位65%の20トンのロットには1,300 MTUが含まれます。
- 請求額は、MTU数に合意したMTU当たり価格を乗じて算出します。
実務上、重要な点が二つあります。まず、含有量は乾量ベースで測定されます。水分は積込時に測定され、MTUの算出前に差し引かれます。例えば米国地質調査所(USGS)は、精鉱価格をWO₃のドライメトリックトンユニット当たりで公表しています。次に、WO₃品位は分析によって確定するため、契約に定めるサンプリングと分析の手順が各ロットの価値を直接左右します。
APTが基準とされる理由
タングステン精鉱の大半は、そのまま使用されるわけではありません。国際市場で取引される主要な中間製品であるAPTに転換され、そこから酸化物、粉末、超硬(炭化タングステン)、フェロタングステンへと加工されます。APTは最も広く取引される形態であるため、長くサプライチェーン全体の基準となってきました。APTの価格もWO₃のMTU当たりで表示されます。
そのため、精鉱は通常APTを基準に価格が決まります。一般的なのは、公表されたAPT価格に精鉱価格を連動させる方式で、APT価格に対する一定の比率とするか、精鉱をAPTに転換するコストを反映した控除を差し引きます。具体的な比率は、品位、不純物の構成、数量、契約時点の需給バランスによって決まります。
価格報告機関は、通常ロッテルダムなどの国際的な受渡条件でAPT価格を公表しています。精鉱そのものの価格評価を行う機関も出てきました。2025年末、FastmarketsはWO₃品位50〜70%の精鉱を対象に、CIFロッテルダムまたはCIFボルチモア条件で、MTU当たり米ドル建ての価格評価を提案しました。精鉱の実際の取引により即した価格の透明性が求められていることが理由とされています。これらの価格評価は有料データであり、どの評価を適用し、どのように平均するかは売買当事者が契約で定めます。
中国国内市場の仕組みは異なります。中国の生産者や価格情報サービスは、WO₃品位65%の鉄マンガン重石(ウォルフラマイト)または灰重石(シーライト)精鉱の「標準トン」当たり人民元建てで精鉱価格を表示し、APTや粉末の価格と並べて公表しています。中国の大手生産者は独自の長期契約価格も公表しており、多くの国内トレーダーが注視しています。
精鉱とAPTの価格は必ずしも連動しない
精鉱とAPTは関連しているため、両者の価格は同じように動くと考えられがちですが、実際にはそうではありません。精鉱が不足すると、その価格がAPTよりも速く上昇し、転換業者の採算を圧迫することがあります。Minor Metals Trade Associationは2024年にそうした局面があったと報告しており、APTの販売価格が精鉱の購入コストを下回り、一部の転換業者が損失を計上しました。精鉱の供給が緩むと、逆の動きが起こることもあります。
公開データからは、基準価格そのものの変動幅もうかがえます。USGSによると、中国が一部のタングステン製品に輸出管理を導入した後、ロッテルダムのAPT価格は2025年の間にMTU当たり約331ドルから約675ドルに上昇しました。APT連動の価格式では、この変動がそのまま精鉱価格に反映されます。
品位と不純物
表示品位は全体の一部にすぎません。転換業者は、処理を難しくしたり製品品質に影響したりする元素に上限を設けています。例えばFastmarketsの精鉱規格は、モリブデン、ウランとトリウムの合計に上限を定め、シリカ含有量にも言及しています。個々の契約では転換業者の工程に応じてさらに上限が追加されるため、不純物の規定は一項目ずつ確認する必要があります。
合意した上限を超える精鉱は、価格の減額や受取拒否の対象となることがあります。また、ウォルフラマイト精鉱とシーライト精鉱は適した処理工程が異なるため、鉱物の種類は細部ではなく規格の一部です。
価格を左右する契約条件
基準価格と品位に加え、バイヤーが実際に支払うMTU当たり価格は、次のような条件によって決まります。
- 価格算定期間: 基準価格のどの期間を平均するか。例えば船積月、またはその翌月。
- 受渡条件: FOB、CFR、CIFのいずれか。運賃と保険の負担者が決まります。
- サンプリングと分析: 誰がサンプリングを行い、どの分析機関が分析し、結果の差異をどう解決するか。
- 重量と水分: どこでロットを計量し、水分をどう測定するか。
- 支払条件: 仮払いと最終精算、および船積書類と引き換えに支払う割合。
Minor Metals Trade Associationはまた、大手タングステン生産者が精鉱の大部分をスポット市場ではなく長期契約で販売していると指摘しています。そのため、公表されるスポット価格は取引の一部しか反映していません。
バイヤーが確認すべき点
- 乾量ベースのWO₃品位と、その根拠となるサンプリング・分析方法。
- 価格が連動するAPTまたは精鉱の価格評価と、平均算定期間。
- 不純物の上限と、上限超過時の減額規定。
- 鉱物の種類が自社の工程に適しているか。
- 受渡条件と、運賃・保険・検査費用の負担者。
取扱可能な規格と品位については、タングステンのページをご覧ください。
出典
- Minor Metals Trade Association: APT metal norm and MTU definition
- Minor Metals Trade Association: The tungsten price rollercoaster
- USGS Mineral Commodity Summaries 2026: Tungsten
- Fastmarkets: Proposal to launch tungsten concentrate, basis CIF Rotterdam, Baltimore price assessment
- SMM: Chongyi tungsten producer releases long-term contract prices
- Almonty Industries: Tungsten background
- Chinatungsten Online: China's tungsten market weakens in September 2026